2019年12月16日月曜日

旺角広東道の老舗・中國冰室が年末に閉店

 12月12日、旺角・広東道にある「中國冰室」が12月31日に閉店するというアップルデイリーのニュース("伝聞"として伝えている)を知り、大変ショック。

 中國冰室は1964年に開業した昔ながらの冰室(茶餐廳の前段階的な店の業態。港式のミルクティーや蛋撻やなどの軽食を出す)で、床や壁のタイルも二階から階下がのぞける構造も天井からつられている扇風機も昔のまま。香港の60年代にタイムスリップしたような気分が味わえる。
 観光客としては二階から下の階をのぞき込んだり、さまざまな柄のタイルを鑑賞するのが楽しいお店だった。





 香港映画にもしばしば登場し、杜琪峰監督の『PTU』では深夜にPTU隊員役の邵美琪(マギー・シュウ)が凍檸琲(アイスレモンコーヒー)を注文していた…(実際の中國冰室は深夜営業はしていません)。
 

閉店理由は経営者の高齢化と後継者がいないためとのこと。
これは現在、アジア各都市の老舗が直面している問題でもあると思うが、中でも香港の場合、家賃の高騰があまりにも暴力的で飲食の商売は非常に厳しい状況にある。なかなか後を継ごうという若い人は出てこないだろう…。
 昔から愛されてきた店が消失するのは、その街の歴史や文化の一部が消えていくことでもある。寂しくそして悲しい。







2019年11月7日木曜日

Mount Zero Books(見山書店)--太平山街の魅惑的書店

【7月以降大きな歴史のうねりの中にある香港。なかなか遊びに行けていない中、恋しく思う街角、すぐにも飛んで行きたい場所をあれこれリストアップしています】

「太平山街」は香港島・上環エリア、荷李活道の南側にある坂道(一部階段)の小さな通りで、近年その一帯に雑貨店やギャラリー、カフェやレストランやバーがいくつもでき、たいそうお洒落な地域となっている。
 その坂を上り切ったあたりの横道に見山書店(Mount Zero Books)はある。
 この書店、香港では珍しい洋風二階建ての本屋さんなのだ。
 黒の窓枠に白い壁という絵本に出てくるようなキュートな建物で、ある香港女性のブログによると以前はここは花屋さんだったそうだ。
メルヘンチックな二階建ての書店。以前は花屋さんだったらしい
店内は4,5人のお客が来たら満杯というこじんまりとした空間で、壁際に本棚が並び、中央の四角いテーブルにも本が平積みされ、さらにバッジやトートバッグやポストカードといった雑貨も並べられている。
 本は古本が中心で一部新本も置かれているといった感じ。冊数は決して多くないが、台湾の出版社の本や中国の文学書もあるし、日本の作家の翻訳本もある。最初に訪れたときにはGunmaという写真集がフィーチャーされていた。ガンマ? なんと群馬の写真集だった!(著者は香港人)。
 雰囲気はかわいらしい書店だが、並んでいる本を眺めるとなかなかにシブいのだ。

 二階へは店の奥の急な階段を登っていく。窓から光が入ってくる居心地のよい空間で、背の低い本棚がいくつか並び、窓際には作りつけの長い机とベンチがあり、机の上には氷入りの水が入った水差しとガラスのコップも備えられている。窓際でのんびり好きなだけ読書三昧ができるのだ。すばらしい!

二階はミニ読書室的空間





  この魅惑的な書店が実は「日替わり店長制度」というユニークなシステムで運営されているのを知ったのは2度目に訪れたときだった。
 初めて訪れたときは眼鏡をかけた学生風な女性スタッフがいたのだが、この時はもう少し年上のてきぱきとした女性(エステルさん)がいて、英語でお勧めの本などを紹介してくれた。こちらが日本人とわかると「私は普段は看護師をしているのだけど、以前日本の被災地(台風か水害の被災地だったようだ)に緊急支援ボランティアで行ったこともあるのよ」と思いがけないことを語ったのだ。
 詳しく聞くと見山書店の店長は日替わりで交代しており、全員がパートタイムの女性たちでだというのだ。
 見山書店は約1年半ほど前にシャロンさんという女性が開業した。彼女は以前から書店を開くのが夢だったが、他にも仕事をしていて忙しく、フルタイムでは働けない。そこで本好きの友人たちなどに声をかけ、現在のようなシステムとなったそうだ。
「毎日店長が違っているから、本の並べ方も変わるの。日によって、書店の印象も違うはず。面白いでしょ!」とエステルさん。
 日替わり店長の報酬はどうなっているのか、売上げをオーナーと折半するのか、固定給なのかボランティアなのかそのあたりまでは聞けなかったけれど、この緩やかなシステムを店長たちは楽しんでいるようだった。

『盛世中国2013』の著者・陳冠中氏の読書会&サイン会も

壁の向こうは卜公花園

 なお、中文の店名「見山書店」は「見山是山,見山不是山,見山還是山」という禅(問答)の言葉からとられ、英文のmount zeroは下山する際の原点(出発地点)を意味する言葉らしい。オーナーのシャロンさんがつけたのだろうか。いつかシャロンさんが店長の日に行って、話をうかがってみたい。

 書店では著者を招いてのトークショーも毎週のように開いている。会場となるのはお店の前。お店のすぐ脇には壁があり(UFOなどのキュートな絵が描かれている)、ちょっとした広場的空間になっているのだ。ここに椅子を並べて、青空あるいは夜空セミナーが今も開かれている。

見山書店 Mount Zero Books 
太平山街6C
平日 11am--6pm
週末 12am--6:30pm